私の『ギックリ腰』始末記

更新日:8月31日


 ある年の梅雨の夜、あいつは不意にやって来た。

 当院では、年間を通じて6・7月が来院数が多い。夕方のラッシュアワーが終り、ホッとした午後7時30分・・・勝利まじかのロスタイム・・・あとわずかでホイッスル・・・心のどこかに隙があった。

 患者さんをベッドに仰向けにさせて首の治療をしようと、その枕もとで中腰になった。その瞬間、グズグズガクガクと嫌な感覚が腰を襲った・・・魔女の一蹴りだ!!

 腰椎捻挫とは、よく言ったもので本当に椎骨どうしが捻じれたような感覚だ。

 腰に力が入らず、腰が伸びず・・・ギブアップしたいが、その日は気合でなんとか乗り切った。

 そして苦悶の日々が始まった。

 2日目 腰痛の患者さんには『仕事を休め』と言っているが、零細企業の親方は休業できず、コルセットをつけて患者さんへ向かう。

 腰が悪い事を隠そうにも腰が伸びず動けずでは、誰が見ても腰痛持ち。日々の言動が災いしてか?患者さんから冷たいお言葉・・・『先生も、たまには痛くなった方が良いよ。患者の辛さがわかるから』

 生まれて初めてのギックリ腰はショックだった。日々患者さんに、腰痛予防の講釈を偉そうに述べている自分が、こんなことになるなんて・・・

 体が思うようにならないので、お笑い芸人よろしく患者さん相手に、自分に降りかかった不幸をネタに笑いをとる。しかし、心は沈みうつ状態。サラリーマンなら有給休暇があるのに・・・サラリーマンを羨み、自営業の厳しさを感じる。

 3日目 痛さに耐えかね、意を決して座薬を使う。この薬が効くのは知っていたが、尻から入れるという行為が、己の尊厳を傷つけられるような気がして実行に踏み切れずにいた。

 しかし、背に腹は代えられぬ・・・ついに決行・・・これが効いた。

 注入後30分、至福の時が訪れた。神に感謝、座薬を考えた人に感謝。痛みが軽くなり、けっこう動ける。

 さらに、別の効果も・・・抗うつ剤が入っているのではないかと思うほど、気持ちはハイになった。痛みと体を自由にできないことが、これほど心に影響するとは思わなかった。己の体で再認識させられた。

 しかし、新たな不幸が待っていた。

 4日目 腰の痛みが和らぎ熟睡できたので、爽快な目覚めのはずが、そうは問屋が卸さない。首を動かすと背中に激痛が走る・・・寝違え( ノД`)シクシク… 腰をかばっていたのが災いした。首は傾き、着替えも洗顔もままならない。泣きっ面に蜂、泥棒に追い銭、天中殺。

 その日の午後には『腰部痛増悪』・・・カルテでは使うが、この場面で使いたくなかった。一生治らないのではないか?そんな弱気にもなる。

 痛みのある人(患者さん)は、こんなにデリケートな存在だったのか。そんなこんなで、苦悶の日々が過ぎ、3週間の痛みとの戦いは終わった。

 これまで、手足の骨折は経験したが、体幹(首・背中・腰)の強い痛みは生まれて初めての経験だった。強い痛みと思うように動けないことが、これほど精神的な悪影響を及ぼすとは驚きだった。

 2日目に患者さんから言われた『先生も、たまには痛くなった方が良いよ。患者の辛さがわかるから』という言葉が身に染みる。患者さんに対して、肉体的な治療に加え精神的なアプローチの重要性を痛感させてくれた3週間だった。

 

閲覧数:7回0件のコメント

最新記事

すべて表示